不思議な怪鳥「オドテ様」の話が、岩手県九戸郡九戸村と二戸市境にある折爪岳に伝わっています。
二升樽ほどの大きさで、上半身はフクロウ下半身は人間のように見え、人の心を読み、占いをしたという。
神様であり妖怪でもありそうなオドテ様ですが、ここでは妖怪の項に分類しておきます。
オドテ様、江刺家岳麓に現る
陸中国九戸郡江刺家村(現岩手県九戸郡九戸村※1)に伝わるお話。
江刺家岳(折爪岳)の麓に一人の若者が住んでおりました。
この若者は、草場にて牛の番をしながら暮らしていたそうです。
秋の陽が山の向こうに沈んだ頃。
若者はいつものように山で牛に草を食ませた帰り道のことでした。
ふと前の藪の中から、こちらを見つめている薄気味悪い目玉に気が付きます。
大きくて真丸の目玉が瞬きもせずに若者に視線を投げかけていました。
しばらくの間、若者がその目玉と睨み合っていましたが、やがて藪の中からひょいっと抜け出してきました。
そして二本の足でピョンピョンと跳ねながら、若者へと近づいてきます。
その大きさは二升樽(※2)くらいでしょうか、毛むくじゃらの顔に大きな目、上半身はフクロウで下半身は人間の様にも見えました。
この不思議なものは若者の前に立ち、大きな目でじっと若者の顔をのぞきこみました。
「はて、これはだらすけおほ(=フクロウ)でもないし、何と言う鳥なんだ?」
と、若者が怪訝な思いでいますと、
「ナントイウトリナンダ、トオモッテイルナ」
と、はっきりとした低い声でしゃべりました。
若者は驚いた上に、大きな丸い目で見つめられてしまい、足がすくんで動けません。
「早く、どこかに行ってくれないものか」
そう思いました。
「ハヤクドコカニイケバヨイノニ、トオモッテイルナ」
と不思議なものが語りかけたので、若者は青くなって見つめ返すのみでした。
「アハハハハ ドテン ドテン」
不思議なものはにわかに大声で叫ぶと、回れ右をしてピョンピョンと藪の中に消えて行きました。
若者はその姿が見えなくなっても、長い間身動きもできませんでした。
オドテ様 名主の家で占いをする
若者が不思議なものにであってから四、五日ほど経った日のこと、村の名主(※3)の彦兵衛は持山に見回りへと出かけました。
すると中腹の大きな栗の木の下に、大きな鳥が横たわっているのを見つけました。
首を長く伸ばし体は冷えていましたが、わずかに息をしているようでした。
「狩人のそれ弾にでもあたったか」
と彦兵衛は家に担いで帰り、内庭の隅の竿に縄で首を縛ってぶら下げておきました。
ところが、いつの間にか竿の先にあったはずの姿が消えていました。
家の者が総出で探すものの見当たりません。
そんな時でした、
「ココダ ココダ」
と、突然声が聞こえてくるではありませんか。
彦兵衛らが声を頼りにすすみますと、あの大きな鳥が神棚の上に大きな目を開き、しっかりと立っておりました。
集まった家の者らが不思議なことだと思って見ていますと、
「ミナ キテェナ(不思議な)モノダトオモッテイルナ ドテン ドテン」
と言うので、皆あっけにとられてしまいました。
村中で噂になり彦兵衛の家へと見に来た中に、先日山の草場で不思議なものにあった若者も来ており、あの時ドテンドテンと大声を出したのがこの大きな鳥だと説明したので、それからは「おドテ様」と呼ぶようになりました。
オドテ様は大きな目を見開き、じっと天井を見つめ、そして時々大きな声で叫んだそうです。
「アシタノアサマァ ハレダ」
「バンガタァ アメェフル」
などと天気を占い、その言葉がピタリと当たっていました。
また彦兵衛が煙草入れをどこかに置き忘れた時、
「オドテ様、煙草入れを探してくださいませ」
と頼みました。
オドテ様は相変わらず天井を見つめたまま、
「ネベヤノカモイ」
ぼそりと答えました。
彦兵衛が寝室に行ってみると、その通り鴨居に煙草入れがあったということです。
これらの話は瞬く間に村中に広がり、失せ物、縁談、病気、姓名などを占ってもらうために訪れたため、彦兵衛の家は毎日大賑わいとなったということです。
そして彦兵衛は、玄関には受付を神棚の前には賽銭箱を置き、自分は羽織袴姿で賽銭箱の横に座りました。
オドテ様はいつも通り大きな目で天井を見つめたまま、問い掛けにボソリボソリと呟いたそうです。
オドテ様の噂は広がるばかりで、遠くの村からも占ってもらいに来る人が増えました。
そのせいかえだこ(巫女)さんたちは寂れるばかりとなり、
「うそつきのだらすけおほの言うことなんざ、信じるんじゃねぇ」
などと悪口を言ったそうですが、彦兵衛宅の賽銭箱はすぐに一杯となったと言います。
これまでずぅっと天井ばかり見ていたオドテ様でしたが、ある日ふと下をみやりました。
羽織袴にすました彦兵衛。
彼の前に這いつくばっている村の人々。
お金の詰まった賽銭箱。
これを見たオドテ様は大きな目をクルクルと回しました。
「アハハハハハハハハハハハハハ」
にわかに大声で笑い、まじめな顔をして、
「シラン シラン ドテン ドテン」
と叫びながら、驚いてる人々を尻目に江刺家岳の森へと飛んで行ってしまいました。
その後二度とオドテ様の姿を見たものはないと言いますが、森に入ると「ドテン ドテン」と時々それらしい声を聴くことがあると言われております。
オドテ様と若者
少しづつ変形された話も幾つか残されているようです。
そこで最初にあった若者が、結末に関わる話の概略を参考までに載せておきます。
若者と出会ったオドテ様は乙名(長老、名主※3)の家に連れて行けという。
もちろんオドテ様の占いはよく当たる。
乙名の家の賽銭箱は一杯になる。
乙名の欲深さに嫌気がさしたオドテ様。
其処を飛び出して小銭を村中にばら撒きながら、若者のところに逃げて来た。
若者のような働き者が好きなので、自分が石になって占いをするからそれを使って楽に暮らせという。
しかし無欲な若者は、石になったオドテ様の力を使うことなく一生を終えた。
本文註
※1)九戸郡江刺家村
岩手県北部、北上山地の丘陵に囲まれた谷底平野だが平野部は少ない地形。
江戸時代は陸奥八戸藩で、昭和三十年(1955年)に、伊保内村・江刺家村・戸田村と合併して九戸村となり現在に至る。
※2)二升樽
二升入る樽のことで、一升は約1.8㍑。
ちなみに五升樽で直径30cm、高さ30cmなので、オドテ様はそんなに大きくないことがうかがえる。
※3)名主、乙名
江戸時代の村役人(首長的存在)で、関東以北でよく使われた名称。
関西、北陸などから西は庄屋の方が通りがよい。
オドテ様伝説の解説
場所 岩手県九戸郡九戸村折爪岳
時代 不明
話型 致富長者譚かつ異類遭遇譚としておきます。
フクロウとオドテ様
資料により「オドデさま」、「オドテさま」、「怪鳥ドテ」などと紹介され、かなり親しまれており、岩手の伝説関連書籍では確実に掲載されるほどの代表的な伝説と言えるだろう。
ここでは、『九戸郡誌』に記された話を基にしている。
様々な要素が組み合わさった形式を持っている話だというのが第一印象で、地元でも有名なために話が練れていると推測でき、おそらくはかなり新しい話ではないかと思う。
原型を想像するのは難しいため、フィールド調査にも伺いたくなった。
さて、フクロウについて記しておきたい。
全国的に伝説や昔話で登場する数自体は多くないが、動物の怪としての話も伝わっており、鳴き声に関する伝承もある。
この異名として、不幸鳥、猫鳥、ごろすけ、ほろすけ、ほーほーどり、ぼんどりなどがあり、古くは、飯豊、不孝鳥と呼ばれていた。
不幸鳥の由来は、フクロウは母親を食べて成長すると考えられていたことによる。
昨今動物類の鳴き声は国内で一様になってしまい、フクロウであれば「ホーッ、ホーッ」辺りに落ち着くと思う。
しかし以前は地域ごとに様々な鳴き声があり、記録にあるだけでも、「のりすけおけ」、「夜明けなば巣つくらう」、「五郎助奉公」、「ボロ着て奉公」などがある。
動物の名称だけでなく鳴き声を比較していくのも、各地方の結びつきや地域の心性を考える一つの民俗学的視点の面白さがありそうだ。
本編にて登場した「だらすけおほ」も鳴き声にちなむフクロウの地方名かと推測しているが、こちらの方言には弱いのでご存じの方がいればご教示願いたい。
神様として祀られるオドテ様
九戸村では幸福の守り神「オドテ様」と呼ぶようになり、写真の通り岩手県九戸村道の駅や折爪五滝の一つ「オドデ様の滝」などでお祀りされている。
賽銭箱が無いのは、やはり名主殿がやりすぎたからだろうか。
失礼な話であるが、オドテ様の大きな目とフクロウという見た目からか、UMAのモスマンにそっくりだとの話もあるようだ。
ちなみにUMAとは、『Unidentified Mysterious Animal』の頭文字をとった造語で、ネッシー、ビッグフット、チュパカブラなどいわゆる未確認動物のことであり河童やツチノコを入れる場合もある。
子どもの頃に訪れた屈斜路湖や池田湖にては、怖いもの見たさもあってかクッシーやイッシーを求めた思い出が蘇る。
しかしモスマンとは1966年頃のアメリカが初見と言うことで、実はモスマンがオドテ様に似ているのである。
ただwikipediaには、モスマンについて「先住民族の呪い説」というのがあった。
これはモスマン出現地で昔から起こっていた怪現象と結びつけ、この地で虐殺された先住民の呪いであるというもの。
昔から起きていた怪現象の話を知りたいがアメリカのことでもあるし難しい。
怪しき者から神様になったオドテ様が下手したら未確認動物扱い。
つまり神様か妖怪かUMAか、ここらの変遷の意味を考えるのもテーマになりそうだと考えている。
そういえば、最近ツチノコ遭遇譚を聞かなくなって(TV等で取り上げられなくなってw)久しい気がしてきた。
開発が進んだせいか、人気が薄れたせいかは分からないが少々寂しい気がする。
youtubeなどに上げれば再生回数が稼げるのでは…と思ったりもする。
で大切なことなので最後にもう一度、モスマンがオドテ様に似ているのである。
参考にした文献及びWEB頁
書籍 編者 斎藤正・深沢紅子・佐々木望 1977年 日本の民話1青森・岩手 ほるぷ Pp.243-247.
書籍 九戸郡誌 岩手県教育会九戸郡部会編・発行 1936年 p.453~455「怪鳥ドテの話」
電脳 Wikipedia
画像 いわての旅 岩手県観光ポータルサイト